Thread Poetics

Thread Poetics

高野萌美

2022. 07. 15 - 07. 24

Press release >

会期
2022年7月15日(金)~7月24日(日)  会期中無休

時間
11:00 – 18:00

7/24 11:00 – 17:00

会場
Gallery Hayashi

主催
ART BRIDGE

 

GALLERY HAYASHI+ART BRIDGEはこのたび、高野萌美による個展「THREAD POETICS」を開催いたします。本展は、GALLERY HAYASHI+ART BRIDGEでは初の個展開催となり、高野の制作の中心を担う糸に焦点をあてた新作を発表致します。

高野萌美は衣類や日用品などに形を変え身の回りに存在している布(テキスタイル)を出発点にそれらが抱える社会・文化的背景と美術史が混交する地点を模索した作品を制作しています。国内外の様々な地域に滞在し、その土地独自の染織の技法を観察、また自らの手を動かし時間をかけて解釈することで得た精神的な気づきを、日常生活で感じる想いと重ねて作品として残しています。本展示は高野が作品のひとつひとつをより言語・詩的なものとして扱うことを意識しはじめたことから「THREAD POETICS(糸詩学)」と銘打ちました。

高野の糸を積極的に用いた作品づくりの契機となったのは2018年にペルーへ渡り現地の伝統的な天然染色に触れた体験でした。同地で彼女は植物や昆虫などの有機物を用いて鮮やかな色を作る工程や、木の棒と縄だけで複雑な模様の布を織る原始的な技法を目の当たりにし、時代を越え脈々と続いてきた文化の息遣いを感じたといいます。その経験を高野はインタビューの中でこう語っています。「そこでは、ものが新たなものへと自然な形で昇華され、あるがままに行う行為全てが必然性に溢れていたんです。それから私は現地の人たちの姿勢を自分なりに解釈して、自分が育った日本にいるからこそできる表現は糸を用いてこそ、可能なのではないかと考えるようになりました。」(アートコレクターズ 6月号)

人の手による日々の労働の積み重ねがやがて文化となり継承されていくという、小さくも壮大な人類の営みが凝縮されたアンデスのテキスタイルと出会い、高野はそれまでの社会に対する問題提起や制度批判などのコンセプト偏重の態度を反省し、日々の暮らしから生まれるささやかな興味や欲求と正直に向き合うことこそが自身の創作にとって重要であると考えるようになりました。言葉を駆使して思考するだけではなく、時間をかけて目の前の物理的な素材と触れ合うことを前向きに受け入れられるようになったといいます。こうしてできた作品群からは、簡略化、迅速化、均一化へ向かう近年の社会への静かな抵抗をも読み取ることができます。

高野は自らを中庸だと語ります。それは人工と自然、中心と周縁、秩序と混沌等あらゆる二項対立を超えた調和を求める姿勢とも言えるでしょう。彼女は手織りの布や手紡ぎの糸、天然染色と大量生産された市販の布や糸、危険な化学物質による彩色を同列に扱い、それらを混ぜあわせできたものを壊し再構築することで、新たな視覚言語の獲得を試みます。それらの行動は言葉の意味を解体し再び「紡ぐ」詩人のようでもあります。日本に育ち、イギリスで学び、そしてペルー、インド、メキシコと旅を続ける「中庸」な高野の作品をご覧ください。