Women in Abstraction

Women in Abstraction

新井碧 今実佐子 三瓶玲奈

2025. 06. 07 - 07. 05

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Women in Abstraction

アーティスト
新井碧 今実佐子 三瓶玲奈

会期
2025年6月7日(土)~7月5日(土)

開廊時間
11:00 – 19:00
最終日11:00 – 17:00

休廊日
日曜祝日休廊

会場
Gallery Hayashi

オープニングレセプション
2025年6月7日(土) 18:00 – 20:00

協力
Yutaka Kikutake Gallery

 

 

GALLERY HAYASHI + ART BRIDGEはこの度、グループ展「Women in Abstraction」を開催いたします。本展は、抽象絵画を制作する女性アーティストに焦点を当てたもので、第一回目となる今回は、新井碧、今実佐子、三瓶玲奈の三名の作品を発表いたします。展覧会は2025年6月7日(土)から7月5日(土)まで開催されます。

近年、世界各地で女性抽象表現作家の活動に注目が集まり、2016年のデンバー美術館「Women of Abstract Expressionism」展、2021年のポンピドゥー・センター「Women in Abstraction」、2023年の東京国立近代美術館「女性と抽象」など、多くの展覧会が開催されてきました。これらの展示では、ヒルマ・アフ・クリント、ジョージア・オキーフ、ジョアン・ミッチェル、桂ゆき、毛利眞美など、女性作家たちの作品の再評価につながっています。彼女たちは、男性中心の美術史の中で十分に評価されることがなかった才能であり、その作品は現代においても新たな発見と感動をもたらしてくれます。本展は、こうした世界的な再評価の流れを受け、現代の日本の女性抽象表現作家の活動に焦点を当てたグループ展です。第一回目となる今回は、新井碧、今実佐子、三瓶玲奈の三名の作品を発表いたします。一様に「女性の抽象絵画作家」という枠組みになりますが、各々が異なる表現を追求しています。

幼いころから身体的な弱さを抱えていた新井碧は、常に自身の身体の有限性と向き合いながら生きてきました。「今、この瞬間を生きること」に焦点を当て、無意識的動作を強調したブラッシュストロークを主に扱う新井の創作は、彼女の生きた痕跡を世界に記述し残す行為とも言えます。1970年代以降のモダニズムにおいて、白人男性が標準的な存在として想定されてきた中で、日本人で、かつ女性であり、必ずしも力強いとは言えない体躯を持つ彼女があえて彼らと同じ画材を扱い、抽象的な表現に取り組む姿勢は、西洋・男性中心的な美術史の構造を問い直す契機となるでしょう。

今実佐子の作品は、口紅やファンデーション、アイシャドウなどの化粧品を用いて紙の上に描かれています。鮮やかなピンク色が特徴的な彼女の作品は、化粧品本来の役割を超え、抽象表現の新たな可能性を広げています。化粧品を日々画面に塗り重ねることで、彼女自身の内省的な部分が表出し、自らの精神世界や日々の軌跡が画面に投影されます。自身の身体を飾る化粧品を用いながらも、表面的な装飾ではなく、作家自身の時間と存在が深く刻まれた作品はまるで自画像のように浮かび上がってきます。また、毎日化粧品を塗り重ね、完成したその日を作品タイトルとしているそのミニマルでありコンセプチュアルな手法は、河原温のDate Paintingを彷彿とさせます。

三瓶玲奈の作品は、風景や自然物、そして光の変化をモチーフに制作されています。完成した作品はその風景や自然物を抽象化した姿のように見えますが、その制作過程には長年にわたる研究と観察が含まれています。作品がもつ抽象的なビジュアルとは対照的に、制作過程における考察や感覚は極めて具体的です。そのアプローチは、ジョージア・オキーフが自然の中で見出した対象を繰り返し描き続け、モニュメンタルな表現へと昇華させた手法にも通じているでしょう。本展示では、”線の像を結ぶ”や”The Face”の作品シリーズを発表します。これらの作品は、三次元的な要素や光の表現を画面上に落とし込むことをテーマとしており、彼女の作品群の中でも特に抽象性を含んだものとなっています。

動作的なブラッシュストロークを活かしたアクション・ペインティング的要素を持つ新井の作品、ミニマルかつコンセプチュアル・アートとしての側面も持つ今の作品、具象と抽象を行き来しながら光の表現を追求する三瓶の作品。同じ抽象絵画の枠にありながら、三者三様の個性と技法がそれぞれ独自の方向へと広がっています。抽象絵画は、単なる様式にとどまらず、多様性と自由、そして無限の可能性を内包しています。その開かれた精神は、いまだに権威主義的な男性中心の価値観が根付く美術界において、周縁とされてきた作家たちを照らし出す力となるでしょう。

 

作家プロフィール

新井碧、持続する線 #11、2025
Pencil, pastel and oil on canvas、H1173 × W913 × D40 mm

新井碧

1992年茨城県生まれ。2015年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業、2022年京都芸術大学大学院修士課程芸術研究科油画専攻修了、現在は多摩美術大学大学院博士後期課程美術専攻在籍。無意識的な動作の筆致を重ねることで痕跡としての絵画を制作。観賞者に「描く行為」を身体的に想像させることで、生命と時間の在り方について問う。2023年のArt Fair Tokyo (GALLERY HAYASHI + ART BRIDGEブース)にて、堂本尚郎、今井俊満らアンフォルメルを代表する作家と新井碧の作品を発表。抽象表現の過去と現在が交錯する展示として高い評価を得る。また、個展「ボーダー・ストローク」(WALL_shinjuku、2024年)や二人展「収縮と剝離」(HIRO OKAMOTO、2023年)では、ジェンダー、身体にまつわる問題をもとに作品を展開する。

 

 

今実佐子、2025.04.01、2025
化粧品、紙、パネル、H803 × W606 × D62 mm

今実佐子

1991年東京都生まれ。2016年筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程修了。自らの絵を「自画像」と捉え、口紅やファンデーション、アイシャドウなどの化粧品を使用して絵を描くことにより、生の痕跡を作品に描き映している。作品を完成させたその日をタイトルとし、日々の微かな心情の変化が色彩や色の重なり具合によって繊細に反映されている。主な展示に2024年「息吹」(LOKO GALLERY、東京都)、2023年「光に向かって歩み続ける」(ギャルリー東京マユニテbis、東京都)、2016年「VOCA展2016 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」(上野の森美術館、東京都)。

 

 

三瓶玲奈、線の像を結ぶ、2025
Oil on canvas、H910 × W1167 mm

三瓶玲奈

三瓶玲奈は1992年愛知県生まれ。現在は東京都を主に、国内では関東・中部地方などを拠点に活動。「知覚とイメージ」の関係性を追求する絵画表現に取り組んでいる。個々の体験や記憶に左右されないフラットで中立的なイメージの成立、およびそれらが深く感受されるための条件を考察し、植物、水の入ったコップ、あるいは木漏れ日など誰もが目にする日常のありふれた光景をモティーフに描く。線や色、あるいは光や温度といった諸要素についてのシリーズを展開するほか、近年ではベルクソンの「物質と記憶」などを参照した作品群を制作。三瓶の作品は、高い抽象性を帯びながら、湿度や温度、手触りといった触感を喚起する特徴があり、どこか温かく、親しみを感じさせる。近年の主な個展に 「光をたどる」(Yutaka Kikutake Gallery、東京、2024年)、「周縁を解く」(Gallery Pictor、神奈川、2023年)、「光をつかむ」(Yutaka Kikutake Gallery、東京、2022年)、「線を見る」(Yutaka Kikutake Gallery、東京、2021年)。および、主なグループ展に「Drawing with the light」(The Reference、ソウル、韓国、2024年)など。主な受賞歴に、2021年「公益財団法人豊田市文化振興財団 豊田文化新人賞」、2019年 「アーツ・チャレンジ 2019」入選、2012年「トーキョーワンダーウォール公募 2012」トーキョーワンダーウォール賞など。主な収蔵先に、愛知県美術館、愛知県豊田市。