小野久留美
小野久留美は現在東京を拠点に活動している栃木県出身のアーティスト。
ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズのファイン・アート学部を2019年に卒業。
「万物は流転する」と、今から約2500年前のギリシャを生きた哲人ヘラクレイトスは言った。人類は、この「流転」に抗いたいという願望、「何かを永遠に留めておきたい」という願望をずっと抱いてきた。
人類が「流転」に抗うために編み出した技術は、たとえば生きるのに欠かせない食品をみても実に多彩だ。ドライフルーツ、干し肉、塩漬けなどの漬物、燻製、冷凍、発酵など、あらゆる事態に対応できるように試行錯誤してきたことがうかがえるだろう。しかしこれらのような技術によって保存期間をどんなに長く伸ばすことができても、形のあるものはいつか必ず崩れ、変質してしまう。このような無常さ、けっして叶うことのない保存への憧れと向き合うなかで、小野は「紙に印刷した写真を土に埋める」という手法を採用してきた。土中の水分と菌類によって「写真」は分解され質を変えていく。流転する世界のいち場面を切り取ったはずの「写真」が、脆い紙の上で、変わってしまう。小野の作品を眺めるとき、そこには留めておきたかったのに変わってしまうという儚さと、その儚さと矛盾するような、無常に抗う保存への憧憬が共存していることに気がつくのではないだろうか
Selected works
Lycoris Ⅰ
2019
紙、インク、土
W297 × H210mm
Season Ⅱ
2021
紙、インク、土
W297 × H210mm
Installation view